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きむ医療連携クリニック 

「受診するのは大変なんや」が耳に残って

ai3_2脳外科医として病院に勤務していたころ、外来診療時には脳卒中の後遺症を持つ多くの患者さんから「受診するのは大変なんや」という言葉を聞いていました。そしてあるとき「一度、患者さんのご自宅を訪ねてみよう」と思いたち、はじめて「往診」というのを経験しましたのですが、その時は迎えてくれた患者さんのホッとした表情が印象的であり、それがきっかけで地域医療に興味を持つようになりました。
その後も病院で勤務していましたが、脳外科医には体力的な限界があると実感することが多くなり、自分のこれからのキャリアを模索するようになっていきました。

 

自分自身がこれからやるべきことは何か?

私はこれまで多くの患者さんを救う中で、1分、1秒を争う診療を続けてきました。脳外科医は急性期の対応が主であり、病院勤務では、手術が終われば大きな役割は終了します。後遺症を残した患者さんには、その後の大変な人生が待っているわけですが、そこまで追うことはできません。私は症例数を増やして技術を磨き、多くの人の命を救うことを使命として仕事を続けてきましたが、「自分自身がこれからやるべきことは何か?」と考えたとき、ふと往診に行ったときの患者さんの表情が頭をよぎったのです。
そして「手術は若い人たちに任せて、これからは自宅で療養している人たちのために力を注ごう」と思った私は、きむ医療連携クリニックを設立し、訪問看護ステーションと連携しながら脳神経系疾患で自宅療養をされている方を中心に、訪問診療に携わることに決めました。

 

「心丈夫です」という言葉が嬉しい

訪問診療は、病院のように「よくなったら終わり」というのではなく、患者さんやそのご家族と深くかかわりながら、現状を維持して自宅で暮らし続けられるようにサポートするのですが、訪問すると安心してくださるということに、自分の存在価値を覚えるようになりました。よく言っていただくのは「心丈夫ですわ」という言葉。これは、信頼していただいているという証であり、この信頼を継続することが自分のこれからの仕事だと考えています。
先日も夜に往診の依頼が入り、急いで駆けつけたら、ベッドの下に患者さんが横たわるではありませんか。「ベッドから落ちたけど上にあげられなくて…」というご家族を前に、患者さんをベッドの上に持ち上げて「大丈夫ですよ」と言葉をかけると、ご家族は救われたような安堵の表情を見せてくれました。その時は、今の仕事にやりがいを感じるとともに、こんな医師の役割も超高齢社会の中では強く求められるのだと実感しました。
多くの人たちが最期まで住み慣れた家で暮らせる社会に、自分はどんなことで貢献できるのかを問いながら、これからも患者さんやご家族に真摯に向き合い、信頼され続けるよう努力していきたいと考えています。

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